来 歴


威厳にみちた森


目くるめくすばやさは
盲の猛禽のつばさかと
太い幹のうしろへ身をすくめたとき
おそいかかってきたのは
一本ずつ天へ落ちこんでいる杉の木のあいだの底抜けの空だ

底のぬけた空だから
くろずんだ森のするどい輪廓に
かろうじてささえられているのか
私の指向する前方とあの空と
はたしてどちらが上だったのか
逆だちの視野に不適な問いを投げかけてみる

答えはたちまち目をくらませる
私はくらい森の一本にやっとからみつく
しかしやがて行かねばならぬ
ここは人間にはただ通り過ぎるだけの場所
うずらの親子づれが息をひそめているけはい
花のつぼみがひっそりとはじける音
みえない存在をひとつ失うこともなく
両脇にかかえこんでいるあれが森だろうか
かずらのたぐいにしばられて
なお威厳にみちて立ち上がっているあれが
天のありかをなぞって山に近づこうとする私を
とめどなく追い上げるとげのごときもの

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